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わびサビ電車

練馬でラッシュのピークを終えた朝の通勤電車。
幸運にも座れた僕は、携帯画面でライブのセットリストを考えていた。
朝の電車内は冴えていることが多いので、クリエイティブな仕事をしていることが多い(降り忘れることも多いけど)。

朝から向かいの席でキャッキャと騒いでいるのは、通学途中の小学生3人。
3人というより3匹といった方がよい感じ。
元気な小学生達は、どうやら宿題の百人一首を覚えている様である。
一人が最初の5文字を読み、他がその続きを読み上げるといった問題の出し合いである。

あさぼらけぇ〜
あまつかぜぇ〜
あぶらあげぇ〜

「なんだよー、油揚げって!」

2人は覚えようとしているのだけど、残りの1人はすでに覚えているのか、全く覚える気がないのか全然答えることができず、2人の邪魔をしはじめた。

せをはやみ〜
かささぎの〜
あぶらあげ〜

「なんだよ油揚げって!」

3匹は「あぶらあげ〜」がツボにはまったらしくキャッキャと笑っている。


自分が小学生の頃、小さな町内で百人一首がはやった時期があった。
あんなに難しい大人の恋歌、人生の憂い歌などを子どもが分かるはずもないのだけれど、僕らは百の歌を楽しんで競って暗記した。
しかし、ただでさえもじっとしていられない少年ありけんが、畳に正座して小さなお札とにらめっこして遊ぶなどそんなことが長続きするはずもなかった。
雪が降っていようが、裏山で駆け回る方がよいに決まっていた。

だけど、冬の寒い時期に近所の子どもらと一つの部屋で輪になって遊んだ記憶は暖かく、懐かしい。


僕は、読まれる問題に合わせて一緒に続きを考えだした。

あしびきの〜
ちはやぶる〜

うー、なんだっけ。あれ、あれだよ。開け!オレの遠い記憶の引き出し。

あぶらあげ〜
キャッキャッキャ

うー、出てこない。
そりゃそうだ、20年も前の記憶だもんな。
くそー、一つは当ててやるぞ。
さあ来い小僧!次だ(実際は向かいの座席で寝たふりをして集中している)。

あまのはら〜
ひさかたの〜
あぶらあげ〜

おー、それわかるぞ!
んん〜、…なんだっけ。

はぁ、ぜんぜん忘れてる。

あぶらあげぇ〜 あぶあぶあぶら あぶらあげぇ〜
キャッキャッキャ(もはやありけんも笑ってる)


もー、みんな朝からよいテンションである。
やがてわびサビ列車は、3匹を降ろし、僕を降ろし、東へと去っていった。



数えきれない程ある出来事、それは大小の記憶の棚。
さらにその棚についている数えきれない程の場面場面、それは記憶の引き出し。
うんと久しぶりに開けられた記憶の引き出しにカビなどは生えておらず、古くなって角がとれた記憶達は僕を暖かくほころばせてくれた。

数えきれない程の引き出しは、これからもひょんなきっかけですっと開いて僕を暖かくしてくれるだろう。
これからもしっかり生きて、たくさん引き出しを作って行かんとね。


油揚げ 浮かぶみそ汁 手に持てば 懐かしきかな 家の味  

やがて3人の少年達は、授業で百人一首のテストを受けることだろう。
あぶらあげ〜の少年は、あの調子じゃきっとほとんど書けないだろう。
でももしかしたら、あぶらあげ〜ですごい一歌を書いてしまうかもしれない。



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【都内は赤坂見附、よい坂道の途中にて見上げれば】

湿度が低く風の気持ちのよい日、うんと高いツタで覆われた石壁を見上げると嬉しくなった。

ツタは、たがが1センチくらいの茎なのに、木々を覆い尽くして枯らしてしまうこともある。
だけど、茎が1センチなだけに小さな根切り虫によって枯らされたりもする。
スポーツだって攻めてばかりじゃ守りが薄くなるし、守ってばかりじゃ攻めれないし。
一長一短、どこかで折り合いをつけてゆかなければならないのだろうけど、なかなか難しい。


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【よく見ると】

ツタの壁をよく見ると、そこにはまた世界。
きっともっと覗き込めば、またさらにそこに世界。
どんな場所、どんな暮らしでも、世界はちゃんとある。


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【そんなの、メーテルに決まっている!】

最近、西武線(池袋線)に銀河鉄道999(スリーナイン)列車が走っている。
普通の列車に銀河鉄道999のキャラクターがペイントされていて、プラットホームを鉄郎、メーテル、車掌さんがでっかく走って行く感じなのだ。

もー、たまらないよね。
2、3度見かけたことはあったのだけど、今日はついに乗ってしまった。(乗り心地は普通)

降りてすぐカメラを構え、さてどのキャラクターを撮ろうか…。

しかし、そんなことは迷うことではない!
メーテル。そんなことは決まっているのだぁ!

この電車、僕らを乗せて空へと旅に出ないかな。

# by ariken-essay | 2009-06-09 07:21